「第2回極東フォーラム開催」-民間交流一段と進む
日本・ロシア協会は四月二十九、三十の両日、ウラジオストクにおいて、ロシア・極東連邦大学、沿海日本友好協会など各機関と共催で、「第2回極東フォーラムを開催した。モスクワで開かれた安倍首相、プーチン大統領の日ロ首脳会談と同時開催となったこともあり、日ロ交流の核である極東での民間交流は新たな段階に入った。
日本からは鳩山邦夫会長、尾立源幸理事長をはじめとする三十七人が参加した。
エネルギー部会の日本側代表として田中伸男日本エネルギー経済研究所顧問が特別参加、さらに当会顧問の下斗米伸夫法政大学教授が加わり、昨年同様、論客ぞろいの厚い布陣となった。
フォーラムは初日の全体会議をロシア側が昨年のAPEC首脳会議の会場となった大規模国際会議場を用意するという熱の入れようだった。
オープニングの全体会議で、鳩山会長は「(1)日ロの人的交流を現在の13万人から100万人、200万人にする(2)シェールガス革命が進展しても日本はロシアからガスを買う(3)農業分野でも日ロ協力を進めたいと」今後の日ロ交流の基本となる事業分野についての長期展望を明らかにした。
今回開催された分科会は「エネルギー・輸送、ロジスティックスと税関業務における日ロパートナーシップ」のほか、「環境にやさしい農業と廃棄物コントロールシステム」、「民間交流」、「ナレッジマネジメント」の四つ。この中で、ナレッジマネジメント部会は、今回、日本ナレッジマネジメント学会(会長)の特別参加を得たものだ。
フォーラムは、首脳会談の成功のニュースが流れる中、各部会とも熱気あふれる討論で盛り上がり、二日間の幕を閉じた。
エネルギー、輸送、ロジスティクスと税関業務で協力
エネルギー、輸送、ロジスティクスと税関業務における日ロパートナーシップ部会は、帆船ナジェージュダ号船内においてオガイ海洋国立大学学長、田中伸夫日本エネルギー経済研究所特別顧問を座長に開催された。
初日は財務省・税関研修所、長島敏明副所長が日本における税関業務について報告し、ロシア側からはベルシュテイン極東税関局、税関管理担当第一副局長から税関分野における日ロ協力の必要性が述べられた。エネルギー問題では青山伸昭新日鉄住金エンジニアリング㈱常務執行役員が多様化する日本・アジアの天然ガス市場について報告した。協会顧問の下斗米法政大学教授は「日ロ関係の新課題」について講義された。
二日目フィセンコ海洋国立大学教授は、ロシア極東地方南部における海洋貨物輸送発展の状況と展望を報告し、日本側は千代田化工㈱池田主任から、水素供給ビジネスが紹介されたほかエネルギー、輸送問題で活発な議論が交わされた。
帆船希望号の女性キャプテンの船出を告げる「ウラー(万歳)、ウラー、ウラー」で閉会した。
日本的経営で議論
ナレッジ・マネジメント部会は、日本ナレッジマネジメント学会(会長奈良久彌三菱総合研究所特別顧問)のイニシアチブにより、同分野としてはロシア初の交流事業として、今回初めて開催され、久米・学会副理事長ほか十名が参加した。
ナレッジ・マネジメントは、人間の知恵や知識の働きを活発にし、組織や新製品開発にイノベーションを起こそうという事を研究テーマにしている、経営学の一分野だ。
初日はエーザイの高山千弘知創部長が「ヒューマン・ヘルスケアという共通善を目指す製薬企業における知識創造活動」のタイトルで講演、全社員がそれぞれ病院や在宅の難病患者を訪れ、患者の苦しみを感じ取って、それを仕事の励みにするという革新的な取り組みを紹介した。高山氏は「ロシアの方の反応は日本と同じだった。製薬企業の新しい取り組みに共感していただいたと思う。手応えを感じた」と語っていた。
一方、ロシア側からは、ロシア・中国、ロシア・ドイツの企業間協力の事例が紹介された。特に、グロムイコ予測研究所長からは、「ネットワーク中心システムにおけるナレッジマネジメント:問題の設定から知へ」と題する報告が行われ、ロシアにおける同分野への関心の深さと研究レベルの高さを示した。
二日目の久米副理事長の「スズキのアジア戦略と技術移転」では、スズキ自動車がインド進出の際に、現地従業員の育成に日本的な工夫を凝らし、短期間で生産を軌道に乗せた事例を紹介。
ロシア側からは「日本は海外に日本文化を輸出し、ミニ日本人を作るのか」という率直な問題提起がなされる場面もあったが、日本側は、「日本企業はよいモノづくりをしようと最適の方法を探っており、進出する地域によりやり方は変わる」との理念を紹介。議論はさらに「企業の目的は利益か企業理念の実現か」など日本的経営論の本質にまで発展、会場は大いに盛り上がった。
環境と農業について議論
4月30日、ウスリースク市沿海国立農業アカデミーで、環境にやさしい農業の有り方をテーマに日ロの専門家が集い活発な議論が行われた。
日本側は古在豊樹前千葉大学学長、ロシア側はコーミン農業アカデミー学長を中心に議論が行われ、植物工場の未来や養鶏、ロシア側からは沿海地方における農業の方向性やロシア極東における冬温室野菜の生産にかかわる問題が提起された。
分科会前後に参加者はウラジオ市内で農産物をめぐる実情の見聞を高めるため、マーケット等視察と商談を行った。
ロシアの子供たちとの交流
土屋副会長を団長に、昨年に続き市民交流が行われウラジオストク市民との輪が広がった。
初日は極東連邦大学日本語学科を訪問、学生交流の重要性と今後の学生交流の取り組みについて話し合われた。
少数民族ウデヘ文化センターでは、沿海州土着少数民族協会のナジェジュダ・セリュクさんは、私たちの三千年に亘る暮らしの場である自然環境、森の保護、少数民族の伝統的な生活様式を保護することが協会設立の目的ですとの話を聞き、日本人形を贈呈した。
オリンピックジムでは、地元柔道家との交流が行われ、少年への柔道指導を視察し、子供たちの健やかな成長を祈って陣羽織と鯉のぼりを贈呈した。
二日目は、第一公立学校を訪問し、昨年子供たちから歌唱の歓迎を受けたお礼に、千葉日ロ協会会員オペラ歌手西正子さんが「さくら さくら」「早春賦」の二曲を歌唱した。日ロ協会の大谷尚史氏からは雛人形が子供たちに贈られ、日本の四季に行われる行事について話がされ、子供たちからは多くの質問が寄せられた。